映画「ダークナイト」
 すっかり時期を逃してしまいましたが、「ダークナイト」見てまいりましたよ。
 先行で見て、その後、もう一度見てきました。

 ジョーカーを演じたヒース・レジャーの死という衝撃があり、映画を見る前はそれを意識して、ヒースの演技に過剰な評価をしてしまうのではないかと思ってましたが、いやもう全然そんな心配は要りませんでした。

 素晴らしい。

 前作「バットマン ビギンズ」は、個々のシーンは良かったものの全体を見ると少々散漫で、日本で話題になった渡辺謙の出演シーンやその周辺のエピソードなど、本当はいらなかったんじゃ……とつい思ってしまったものですが(ナベケン起用も日本という市場を意識してのことだろーなーとか穿った見方を、ついしてしまうほど)、ちょっと、クリストファー・ノーランは本気でしたよ。

 ビギンズは、本当にあくまでビギンズ―「はじめに」であって、ノーラン版の「バットマン」世界、ゴッサム・シティという架空の犯罪都市に、骨格を与え血肉を与え、バットマン=ブルース・ウェインに苦悩と煩悶を与えるための導入に過ぎなかったのだと、勝手に断言します。

 散々ひどい目に遭いながらも、人を、街を、正義を信じる――信じきれずにバットマンとなったものの、いつかはそれが不要になる日が来ると信じている――ブルース・ウェイン。
 その姿勢が腹立たしくて仕方ないジョーカー。
 同じところへ堕ちて来いよとあの手この手で絶望を突きつける。

 そのジョーカーの存在感たるや、圧倒的。
 これほどのジョーカーを演じたヒース・レジャーの死が、改めて悔しくなった作品でした。


 以下、相当ネタバレ有ります。と言うか結末にまで触れてますのでご注意。

 かつてティム・バートン版の「バットマン」でジョーカーを演じたジャック・ニコルソンは、ヒースの死に際して「だから言ったのに」とコメントしたと報じられましたが(※)、怪優ニコルソンでさえもジョーカーを演じた際の精神的負担は大きかったと言います。

 ※役についてではなく、薬の服用についてだと後に釈明したそうですが、うーん、どうだろうね。

 まあでも個人的にはヒースのジョーカーの方が断然良いです。

 ニコルソンのジョーカーは、野心や復讐心のある人間が狂気を装っているだけと言う印象が拭えず、先が読めない、目的が分からないと言った不安感はあまりありませんでした。
 バートンの演出のためか、軽さが先にたってしまうせいかもしれません。
 正直ニコルソン自身、エキセントリックな人物を演出しすぎて過剰になってると言うか、過去の演技のセルフパロディ的なのが鼻についてあんまり好きじゃないからかも。
 話は逸れるけど「ディパーテッド」のこの人は本当に分かりやすく「危険な人」で、「インファナル〜」におけるサム(マフィアのボス)のような底知れなさが感じられませんでしたよ。


 閑話休題。

 ヒースのジョーカーは正常と狂気に分けられた世界からすでに乖離してしまっている。
 彼の犯す悪や暴力は、すべて自身の楽しみのためであり、たとえば、プログラマーが設計図の通りにプログラムを組み上げるように罠を張る。
 計画通りに行かない点があっても、それは些細なバグであり、いかようにも取り戻せるだけの手を用意している。
 純粋なる悪。狂人というには計算高く用意周到。けれどそこに欲はない。
 もしかしたら暇潰し程度のものなのかもしれない。
 欲といえば、せいぜいバットマンや、正義漢の検事デントを闇に引き摺り下ろしたいということくらい。
 何のために? さあ何でだろう。
 ジョーカーはバットマンに言う。「お前も俺も同じクリーチャーだ」と。

 クリーチャーには怪物という以外に、ある種の畸形である含みがある。

 何の見返りもないのに善を貫き、自らの危険を顧みず行動するデントやバットマンの存在は、何も信じないジョーカーにはそれこそ畸形に見える。
 誰もが、自分や自分の愛するもののためにを言い訳に、あっさり誰かを裏切る。
 闇に堕ちるのは簡単なことだ。
 それを、思い知らせたい。

 何のために?
 さあ、何でだろう。

 あれほど目立つ傷がありながら、これまでの経歴が一切謎のまま、ジョーカーはそこに立っている。
 これまでひっそり身を潜めて生きてきた(かどうかは知らないけれど)ジョーカーが、こうして表に出てくる契機になったのがバットマンだとするなら、なるほど、ゴッサム・シティを包むこの恐慌はバットマンが引き寄せたものだ。

 理性の淵まで追い詰められたデントは、他人を恨みながら落ちていく。こうなったのはお前のせいだと銃を突きつける。
 ブルースが「光の騎士」とまで賞賛した男でさえも、堕ちる。
 誰でも簡単に堕ちる。

 唯一ジョーカーの計算外だったのが、バットマンの頑なさだ。

 目的のために手段を選ばない、被害の大きさも振り返らないバットマンはジョーカーとまさに紙一重だ。
 ジョーカーが彼を同類だと感じたのも無理はない。

 けれど、バットマンは愚直なまでの頑なさで、ジョーカーを否定する。

 けれど、どうだろう、その結果バットマンは「闇の騎士」となり、ゴッサム・シティは希望の光を失った。

 バットマンはジョーカーに勝ったのだろうか。


 ノーランの次なる本気も楽しみにしてます。
| 三月 | 映画 | 17:04 | comments(0) | trackbacks(10) | -









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洗車をすると翌日高確率で雨{/kaeru_rain/}が降るピロEKです{/face_hekomu/} 先程、夜勤から帰ってきました{/ase/} 私の会社は夜勤があります。ほとんどの生産現場の従業員さんは夜勤で働いている訳で…とはいえ私の場合、ここ数年間は夜勤なんてしていなかったんで
| ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画 | 2009/02/17 10:01 PM |