映画「イカとクジラ」
 ようやく見てきました「イカとクジラ」。
 舞台は1980年。

 父は大学で講師をして何とか稼いでいる売れない作家。
「高尚過ぎて受け入れられないんだ」と長男はフォローしますが、果たしてどんなものを書いているやら。
 息子が高校の授業で習う作品にケチをつけ、自分の「高尚な」文学論を息子に押し付け、本を読まず映画を見ないような人間を「俗物」と見下してばかり。

 母は結婚後、小説家としてデビューしたのかな?
 理想家というよりもいっそ夢想家な父に比して、クールな実際家。
 父とは違って「大衆向け」の小説を書いてなかなか売れっ子のご様子で、自分の物語について、先輩風を吹かせてアドバイスする父には少々うんざり。

 長男(16歳)は、両親の関係がギクシャクしているのを肌で感じてとてもナーバス。
 冷めてきている母に対するフォローのつもりか、売れもしないくせに御託ばかり偉そうな父を持ち上げたり、女の子を口説くのに、父の受け売りで読んでもいないカフカについて語っちゃったりしてる。

 次男(12歳)は年の割りにませた子で、時折兄よりよほど冷静に見える。
 テニスが好きで、コーチを尊敬しているけれど、そのコーチは父の嫌いな「俗物」。
 自分の好きなものをことごとく否定するような父を嫌っている。

 そんな4人の家族の「両親の離婚」から始まる物語です。


 以下思いつくままにネタバレありあり感想。
 ストーリーは全然追ってません。
 なんと申しますか、非常にイライラする両親で見てて歯がゆくなりました。
 ホント、子供たち可哀想。
 ところどころ挿入されるコミカルな間がなければ、80分という短さでも鑑賞に耐えなかった気がします。

 親というのは「父」「母」である前に一人の人間なのだと言う現実を、我々は成長していく中で少しづつ気付かされていくのでしょうが、この兄弟にはある日突然突きつけられた現実だったりします。
 両親の不仲はどれくらい続いていたのか、長男は離婚を知らされるまで、まるで気付かなかったような顔をしているけれど、実はずっと前からその恐怖に脅えていたことが明らかに。
 不安定で、ナイーブな長男の演技は秀逸です。

 離婚の原因は、母の浮気が決定的だったため。
 以前からずっと気付いていた父の我慢の限界を超えてしまったわけですが、母のほうにももちろん理由はあるのでしょう。二人がどんな話し合いを下のかは一切描かれていません。
 しかし母ちゃん、相手の男を家に呼んで、何食わぬ顔で子供たちに会わせていたりするのはひどいよ。
 まだ中学生の息子相手に、どんな人と関係してきたのか話しちゃったりとかさ。
 そりゃ兄ちゃんも怒るよ。

 父が「俗物」を見下すのは、母の浮気相手がそんな連中ばかりなせいか、それともその逆か。
 否定があまりに強すぎて、次男は自分自身が父に否定された気になっている。

 で、長男は当然のごとく、そんな母の所業にずっと耐えてきていたという父の方に肩入れするわけですが、そんな父も、結局はエゴばかりだってことに気付いて居場所を見失っちゃうんですな。
 あーもうそりゃ父ちゃんと「男同士の話」みたいに女の子やセックスのことを話すのはいいけどさ、「男」なことはまだ見たくなかったよねえ。

 なんて感じで、どうも両親があまりに大っぴらに性を見せ付けるんですが、アメリカではそれが普通なの?
 子供たちが戸惑い悪影響を受けているじゃない。
 そういう批判が篭められているのかしら。
 作中が80年代なので、両親はヒッピー世代なのかな?
 すっぴんで奔放な母はそんな世代っぽいかなー。父ちゃんはもう少し上っぽい。

 タイトルの「イカとクジラ」は、長男が昔、母と行った自然博物館で見た、ダイオウイカとマッコウクジラの死闘を模した展示物から。

 ずっとずっと抱いていた恐怖。

 絡み合う巨大な怪物。

 それは、父と母だったのだ――ってところでエンド。


 決して清々しさのない、もやもやしたものを抱えたままエンドロールを見て、そこにかぶってくるピンクフロイドの「Hey you」。
 劇中でも何度もかかる曲ですが、ここに長男の叫びが込められている。
| 三月 | 映画 | 11:53 | comments(1) | trackbacks(5) | -
きょう三月の、父にアドバイス♪
三月がここでコーチするはずだったの。
| BlogPetのほれいしょ | 2007/01/25 12:30 PM |









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ホント、親の離婚は子供にとっていい迷惑です! しかし親も残りの人生を楽しむ権利はあるわけで…、難しい問題です。
| 象のロケット | 2007/01/28 10:26 AM |
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